怒りにフックされるということ

どうしようもなく腹が立つことがあったとき、その怒りとどう向き合うかは結構悩ましいテーマです。

私は基本は温厚なほう(だと思っているの)ですが、時折ゆるせないことが起こって相当ぷりぷりしているときがあります。 それは大抵、「私なら絶対しない!」ようなことを平然とやってのける人を目の前にしたとき。文化的な違いもあるんだと思いますが、チェコにきてからその頻度が激増しました。 本当に、怒らない方法があるなら教えてほしい…ほんとに穏やかに日々を過ごしたいです(遠い目) 

職場での摩擦 

私は今プラハにある日系企業で働いています。社長と私以外の同僚は全員チェコ人。今日はその同僚の一人である、セールスマネジャーの話をしたいと思います。 

彼は私よりも二つ年上で、見た目的には、すらっとした、いわゆるイケメン?に入る部類なのかもしれません。 技術系専門大学を卒業している元エンジニア。とてもロジカルで、何事も正しく理解するまであきらめないタイプ。逆に言うならばロジカルに理解できないものを受け入れないところもありました。 

彼が飛ばすジョークはいつもシニカルで、人の感情のギリギリを行く感じのやりとりが多い人でした。それがハマると絶妙で面白いのですが、正直聞いていてあまり気持ちよくないことも。 

私は彼と常に協働する立場にいたので、基本的には関係も良かったといえます。ですが、私が例外なしに必ず彼にモヤモヤさせられる点がありました。それは、彼が日常的に言う「日本人」をひとくくりにした言葉の数々。 特に、本社の人々の仕事ぶりが気に食わないときに、それが加速する傾向にありました。 

「日本人は仕事が遅い」

「日本人はバカだからこんな簡単なことができない」 

「彼らはベイビーだから俺らが全部やってあげなきゃいけない」 

むむ…書いてるだけでイライラしてくる…(いかんまた怒りが…w)

まぁ、この時点で色々とセールスマネジャーとしてもビジネスマンとしてもアウトなんですが、 彼がこの会社で一番歴が長かったこともあり、会社にとっては抜けられると一番困る存在でもありました。それゆえにその存在はよくも悪くも大きく、彼の発する言葉に周りのメンバーも完全に飲み込まれていて、口を揃えて「日本人はこれだから…」というような雰囲気が蔓延していました。何かうまくいかないことがあると、相手を落とすことで自分の正当性を主張して、悪口になると盛り上がるというなんとも不思議な状況。日系の会社で働くことを選択し、働き続けるという選択をしているのは彼ら自身なのに、です。 

ちなみにそんな彼らの中での私の存在はというと、「なんか普通の日本人ではない」との認識をされていて(その普通の基準はなんなのか不明ですが)、なんとなく特別枠でした。そのため、こういう雰囲気の中でも私と彼らとの関係はまぁまぁ良好だったということです。

なのに、堪忍袋の緒が切れる 

こんな会話が同僚の間で日常化している中で、ちょっとしたことがきっかけで日頃ため込んできていたものが突如爆発し、ブチ切れてしまったことがあります。 私が人に対して怒りをぶつけることは相当レアなので、自分でもよくそのシーンは覚えています。

その日も日本の同僚をけなすことに精を出すセールスマネジャーと一部の同僚。その話声がバックグラウンドでずーーーっと聞こえ続けていた中で、そのうちの一人が「日本人は何もしない」と言いました。その瞬間、うん、ちょっともうこりゃ言わないといけないな、と確信しましたので、彼らにむかって話しかけました。(以下日本語に翻訳してお伝えします)

「おい」 

ちょっとこの時点でアレです。話しかけ方間違えました。怒ってるのがしょっぱなからバレる感じの…。

ただ、もうそう始めてしまったからには止められないので、そこからは淡々と低い声で語りかけるのです。

おいきみたち。

今なんていった? 

日本人がなんだって? 

目の前にいる私は日本人だよ

私の大切な人もみんな日本人だよ 

その私の前で堂々と日本人をけなすってどういう神経してんの 

と。 

怖いw 

私も色々とアウトです。私も日本人のことさして分かっていないのに偉そうにごめんなさい。あと、書きながら日本人の概念って何なんだろうとわからなくもなってきましたが…。とりあえず、私をここまで怒らせる人はそうそういませんので皆さんは安心してください(?)実際は英語だったので、感情の鮮度は多少落ちたと思います。そういう意味では日本語が通じない相手でよかったです。元ヤンの弟を持つ身としては語彙力が豊富なので

静まり返る同僚たち。 

しばしの沈黙のあと、必死のフォローが入る。

「Shokoのことを言ってるんじゃないよ!」 

「Shokoはヨーロピアンみたいだからそんなことないよ!」 

「一部の人のことだけだよ!」 

はい。

関係ありません。

そんなこと言っている暇があったら仕事してください。 

ちなみに余談ですが

実は、のちにこのセールスマネジャーと古株達は辞めていき、今はメンバー総入れ替えでとっても和やかな職場になっています。人が変わるとこうも会社は違うものかと驚いています。

新しいセールスマネジャーのヨゼフは私の向かいに座っているのですが、ふとしたタイミングでガバっと席をたち、 「Thank you for your good job」と真顔で向かいの席からバナナをくれます。バナナ… しかもちょっとまだ青いやつ。とりあえずいつも有り難く頂戴しています。小腹が空いた時にちょうど良い。でもなんでいつもそんなにバナナ持ってるんだろう。そしてなんでヨゼフはいつもバナナ食べてるんだろう…

怒りの反芻。こうなるともう止まらない。 

話をその日に戻して…

家に帰っても頭の中でそのシーンを何度も反芻しては、 「やっぱりあれはおかしい」「あの時もっとああいってやればよかった」などと、何度もあのシーンをシミュレーション。そうすることで、私の怒りはどんどん増幅されていきました。 

夕食の時間も、今日会社であったことを事細かに夫に報告して、彼が何かコメントをするとそれがまた火を注ぎ 爆発するという状況。夫は完全に被害者です。 

怒っている間はずっとそのことが頭から離れない。 目の前の美味し(かったであろう)夕食の味も、夫との楽しい(ものになるはずであった)時間も、 溶岩のような怒りに流されていきます。 

怒りにフックされる損 

これが絵にかいたような、「怒りにフックされている状態」です。 今こうして冷静に書いてみると、この怒りによって私の大切な時間がどんどん失われていっていたことがわかります(反省)。 フックされている間は、自分の時間を相手に奪われているということですよね。貴重な一日の主導権を相手にうばわれているという、 なんとも悔しく、損な状態です。 

こういうと元も子もないのですが、怒りをなかったことにするのは難しいのではと思うんです。 怒るのは、自分が大切にしている価値観をないがしろにされたから。大切な価値観であればあるほど、怒りは大きくなります。

ちなみに、コーチングでは怒りを自分の大事にしているものを知るヒントとして扱うことがあります。とはいえ、そんな風に冷静に考えられるのは後日の話なわけで…。

コントロールしたい

怒りの発生自体は(少なくとも私は)抑えられないのですが、ただ、よりうまくコントロールして付き合っていくことはできると思います。 そのためのはじめの一歩は、まずは自分がフックされているという事実に気が付くところからではないかと思います。 「あ、今フックされてるな」と気が付けば、フックされることで被る損を思い出すことができるはず。

そうすると、「ああいう人のことは気にしない」と怒りの増幅をシャットダウンするか、相手との距離を物理的に置いて思い出さないようにする、今日は早く寝る、など、自分なりの「一刻も早く主導権を自分に戻すための手続き」を選択することがしやすくなるはずです。

ちなみに、私の場合の手続きは紙に書きなぐる、でした。頭の中で何度も再生されるシミュレーションを断ち切るために、一度全部出し切るという作業が必要だったからです。書きなぐっている自分を想像するとまた違う意味でちょっと怖いです。

ちなみに私の持ちうるオプションには、相手を徹底的に説得して態度を改めてもらうという案もありましたが、それは選びませんでした。なぜなら、彼はそう物事を捉えるようにして長年生きて来たのだし、そうなった理由がきっと人生のどこか根深い部分にあるはずだからです。出会って数年の私が語りかけたところで、相手を変えられるとは思いません。

怒りの消費エネルギー

怒ったあとは、それはそれはドッと疲れます。

チェコでの暮らしは「ありえないこと」が油断したころにやってくる。そのたびに顎が外れそうになるほどあんぐりしてしまいます。きっと皆さんの日常にも多かれ少なかれあるのではないでしょうか。その度に私は怒りの消費エネルギー量を考えて、湧いてきた怒りをコントロールできるようになりたいと思っています(思っていますけれどまだできるとは書けない…)そのエネルギーをほかのことに使える自分になったほうがエコ、ですよね。はやくそういう境地にいきたいです。

今日も最後までありがとうございました。