マタニティ・リーダーシップ

誰に言われたわけでもないのに勝手に察して、自分で自分に何かを課して、その結果自分が苦しむことになる。こういうことって、結構周囲に溢れているように思います。

周囲の女性からよく聞くのは、例えば「不妊治療で早退することも多々あるから、残れる日は残業しなきゃ」とか、「産休入ると迷惑かけちゃうから、今のうちにやりきらないと。」「時短で働かせてもらってるんだから、家でもできることはやったほうがいいかなと思ってPC持ち帰って夜仕事してる」「土日も好きなことさせてもらってるし、夫にはあまり文句言わないようにしてる」とかとか。

こういう想いから頑張りすぎてしまって、結局体調を崩してしまう人も私の周りにはちらほら。

私も例外ではなく。。

つい最近まで、自分自身の妊娠に関することで一つ明確に課していたことがあります。 

それは、 
妊婦は無理しちゃいけない。  
というもの。 

今はただ感謝して母親の自覚を持ってゆっくり過ごすんだ。
ちょっとくらい自分の目標に向かうペースが落ちてしまったとしても、今は仕方がないんだ。
無理しないほうがいいよね。

誰も私にそんなことをダイレクトに言ったわけではない。なのに私は勝手に何かを察して、自ら進んでそう思い込み始めた。

それはまるで、形が見えずまとっていることすら自覚がないのに、確実に自分の行動を特定の方向に制限していく、なんだか透明の鎖みたいなもの。

先日のコーチとのセッションの中でその鎖の存在に気づき、少し大げさな表現だけれど、私はその鎖を断ち切ることを決めました。

そしてその代わりに手にしたものは「マタニティ・リーダーシップ」

私とのセッション後に、コーチが「恩塚さんとのセッションを終えて浮かんできた言葉です」と言って贈ってくださった言葉で、これは今の私にとって鍵になる言葉だと直感しました。 

今日はここに至るまでの過程について書いてみます。 

98%の掛け算 

0.98 × 0.98 × 0.98 ×… 

私がマタニティというテーマに対して抱いていたイメージはまさにこれです。

体は基本いつもだるいし、お腹が大きくなってきて物理的にも動きにくい。おしゃれしたくてもマタニティウエアにそもそもときめかない。今頑張ってキャリアを積んでも出産でどうしても一度分断されるし、これまでのようなペースで仕事ができる保証は一つもない。大好きなひとり時間も、どうやらこれからは無くなるらしい。

あれもできない、これもできない。

こうやって、少しずつ自分の可能性が絞られていく。その結果、自分で自分の可能性になんども98%をかけ続ける。

拭えない違和感

それは私が今まで歩んできた世界とは対極の世界でした。

今までの私は多少背伸びをして無理をしたとしても、ずっと102%を頑張って掛け算し続けてきた。そうやって可能性を引き伸ばしてきたという自負がある。

だからこそ、

「出産後は本当に大変だよ。一人の時間がなくなるから、今のうちに楽しんでね!」「身重なんだから無理しないでね」「妊娠中に飛行機とか乗って大丈夫なの!?」 「ほんと恩ちゃんは頑張りすぎちゃう人なんだから気をつけてね」

周囲からこのような言葉をかけていただく度に、ありがたいような反発したくなるような、複雑な感情に苛まれていました。

どれも根っこは善の発言なのはもちろんわかっていて、心配や賞賛をしてくれることに心から有難いと感じる部分もあったけれど、一方で「私は私で人生設計や目標があるのに、なぜそこに向かって頑張ってね!きっとできるよ!というエネルギーを周囲から感じないのだろう」とモヤモヤしていました。 

何か決断をしようとするたびに、知らず知らずのうちに私が ”勝手に” 受け取ったメッセージたちが重荷になり、気がつくと心が疲弊していきました。
そして、そう感じていることもまた人に言えませんでした。なぜならついこの間まで、妊娠したくてもできない側に自分もいたから。あの時期のどうにもやり場のない思いは今も覚えてるから。

だから、”君は奇跡的に妊娠できたんだから感謝しておとなしくしてようよ” そういう心の声はいつもあった。そして実際に無理をして体調に異変があったらどうしようという不安もあった。だから、今はセーフティーサイドを取っておこうかなと思う自分もどこかにいた。

そうこうしているうちに、自分でもどこまでアクセルを踏んでいいものか段々よくわからなくなっていました。 

2回の日本帰国

それでも、私にはどうしても出産前にやりきりたいことがありました。チェコでとったコーチング資格に加えて、今はICF国際コーチング資格の取得を目指しています。そのためには4回の講習を日本で受講することが必須なのです。1回は妊娠前に終了しており、残すはあと3回分。それを出産前に完了させたかったのです。

渡航可能な時期とコースの空席状況を考えると、9月に1本、10月に2本の受講をするしか道がない。途中チェコでマストの検診があるので、9月の受講後一度チェコに戻り、また10月に渡航する必要がある。直行便がないチェコとの往復(合計18時間くらい)は通常時でさえ中々しんどいものがあり、今の状況で無事にやりきれるか心配だったけど、最後には夫の力強い後押しもあって、二度にわたる往復を頑張ってやってみようという結論になりました。

これは私が探り探りに踏み込んだ精一杯のアクセルだったと言えます。

台風19号

9月の受講も無事コンプリート、チェコでの検診も完了し、万全の態勢で臨んだ10月9日の二度目の渡航。無事に日本に到着しました。

その数日後、台風19号が日本を直撃しました。

関東が直撃された10月12日は、私が10月の帰国で完了させたかったコース2本のうち、最初のコースの開催日でした。

これだけの規模の自然災害を前に中止の決断をせざるを得ない状況。新日程は事務局のご尽力もあって奇跡的に私の日本滞在期間中でのスライドとなり、幸い1本目の受講は叶うことになりましたが、2本目のコースは玉突きで11月以降に押し出し。

私の航空券は10月31日。さらに年内の他日程はもう満席。

この時点で、出産前に全ての日本でのコースを完了させるという私の当初の狙いは泡となりました。

なんでこうなっちゃうかなぁ…

怒りと諦めが交互に襲ってくる。

完璧な計画なんてないとわかっていながらも、そう思ってしまいました。テレビから連日流れる甚大な被害を前に、コース受講が叶わなかったことくらい何でもない!とただただ自分に言い聞かせました。

そして、10月25日から1本目のコースがスタート。その頃にはコースを完了させられない事実についても、きっと長い目でみたら意味があるはずだと納得することができていました。

ところが、急に届いた朗報

ですが、最終日の27日、突然の朗報が。

なんと、11月15日からの最終コースに急遽空席がでたため、希望者は今なら優先的にエンロールできるとのこと。

11月15日なら、日本滞在をあと2週間延長すれば手が届く。

直感的に「やりたい!」と思いました。そんなチャンスが目の前にあるのなら、絶対に掴みたい。

でもそのためには、いくつもの調整が必要でした。

そもそもの航空券は払い戻し不可、その上新たな片道航空券の出費がかさむこと。かつ、自身の体調を最優先して予約していたアップグレード席の権利を手放さなくてはいけないこと。チェコに戻ったあとすぐに予定されている大切な検診をキャンセルすること。そして、日本からわざわざチェコに来てくれる予定だった友人のアテンドができなくなること。

私を激しい後ろめたさが襲いました。

自分のやりたいことを追求して検診をキャンセルするなんて、母親の自覚がなさすぎるのでは…?夫にわがまま言って日本に長期滞在しているにも関わらず、さらにそれを延長する上に出費もかさむなんて自分勝手では?
友人にも私がチェコにいるタイミングを狙って計画を立ててもらったにも関わらず、自己都合で変更?
今フライトを取り直したとして、乗継の条件が悪くなるのは必至では?

どうしよう。

やりたい。

でも、今回はおとなしくチェコに戻った方が…

どうしよう。

迷う私に実家の両親から、
今回は体を優先して予定通りチェコに帰ったらどうだ。最後のコースは出産後にやればいいじゃないか。
というダメ押しの言葉。

予定された帰国日まであと数日。

透明の鎖がキリキリと私の思考を狭めていくのを感じました。

問い

私はこの突然のチャンスを前に、何か大きなものに問われたような気がしました。それは、

きみは0.98の世界で生きたいのですか?

それとも1.02の世界で生きたいのですか。

という問い。

…我ながら大げさだな…w

でもその時の私の視野はこーーんなに狭くなっていて、私にとってはかなりの大ごとだったんです。

決断

もうお察しだと思いますが、私は1.02を取ることに決めました。

私すごい真面目なんだと思うんですけど(自分で言ってしまいますけれどw)この決断に至るまでに相当色々なことを考え込んで、最後夫に話す時もガン泣きで、ビデオ電話越しに夫はかなり目が点になってました。
超絶ポジティブシンキングの夫からすると、「たった2週間の延長じゃん。絶対コーチングやったほうがいいよ!(即答)」なので、ビデオ越しに泣き続ける嫁に完全にWhat happened? 状態。

そこに「検診がぁぁ」「お金がぁぁ」「自分勝手な私でぇぇ」「リスクがぁぁぁ」と気がすむまで泣く私。

夫: 大丈夫だよBaby!

私: ごめんなさぃぃぃ

夫: コース頑張ってね!!

私: でもぁ%#*^+£$@&ぁぁ〜

会話は終始こんな温度差であんま成り立ってない。今振り返ると大分おもしろい場に仕上がっていたと思います。

そしてその決断の直後にあったコーチとのセッションでも一度開いた涙腺は閉まりきらず、号泣。そして最後にはケロッとするタイプ。

1.02は量ではなく質

セッションを経ての大きな気づきとしては、この1.02の気持ちは物理的な努力量ではなく、質なのだということ。
妊娠に安定期はないと言われるように、実際に出産する直前まで体調不良に苦しむ方もいます。もしこの数式が物理的な量をさすならば体調不良で寝込んだ時点で0.98どころの減りではなくなってしまいますよね。

私が今感じていることはそういうことではなくて、今の期間をどのような心持ちで過ごしたいのかという “質” の重要性です。

そのために欠かせないことが、マタニティな中でも自らのリーダーシップを手にして日々の決断や行動をとっていくことなんだと今回の一件を経て感じています。

すぐ疲れて寝てしまう分、妊娠前と比べたらやっぱりかなり非効率。でも、こなせるタスクの量をみるのではなく、私が私の気持ちにどれだけ素直に従ってこの時期を過ごしているのかということ。

自分の体調の許す範囲で、妊婦はもっと自由でいい。あの時期私はあれを諦めた、という制約ではなく、あの状況の中でも私は自分で考えて自分で決めて進んできたんだという自負。

そして、リーダーシップはきっと妊婦だけじゃなくて、すべての人に共通する大事なキーワードだと思っています。

どんなフェーズに身を置いていようとも、人生に自分のリーダシップを持つこと。

忘れないようにしたいなぁと思ったのでした。

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